絵画はほとんど想像の産物なのかもしれない

絵画の基本は見ている物を見えているように描くことでしょう。私が絵を勉強していたとき、絵の先生は、絵画というものは、2次元の中に3次元があるように錯覚させるものだ、とおっしゃっていました。実際には、目の前に見えている物を見えているように描くのは、非常に難しいことです。芸術学部を目指していた私たちの訓練は、これをできるようにすることで、基本はデッサンでした。有名な石膏像がアトリエの中にあり、昼間でも理科の実験室にあるような分厚いカーテンを閉め、外からの光を遮断し、木炭と食パンでひたすらデッサンに取り組む毎日でした。

外部からの光を遮るのは、石膏像にあたる光の方向が変化しないようにするためです。白い紙に木炭で石膏像を描けば、見えている物を見えているように描く以外、誤魔化しようがないわけです。食パンは消しゴムのようなものです。こう考えると、実際に絵画を描くときには、一瞬見えた光景が鮮烈に細部まで記憶に残っていない限りは、ほとんどが想像によるものだと考えることもできそうです。静物画などは、わりと忠実に見えている物を見えているように描くことができそうですが、自然光が外部から入ってきていれば、光の方向によって、物の見え方は変わってきます。また、静物画でも、花や果物などを描いているのであれば、時間が経つにつれ、それらは変化していきます。人物を描くにしても、いくら優秀なモデルでも本当に微動だにしないでいられるわけはありません。生き物である以上、必ず動いていますし、少しずつ変化しています。風景画などは、風景を見て描いていても、ほとんど想像だと言えるのかもしれません。光の方向は刻々と変化しますし、空の色も雲の様子も同じではありません。風が吹けば草木は揺れます。写真でも、光の方向や天気などで、同じ風景や物が非常に違う印象を放っていることがありますが、絵画も同じだと言えそうです。

某芸術大学油絵科出身の先述の絵の先生によると、写真はレンズによって歪みが生じているので、人間の目で見て描いた絵のほうが正確なのだ、ということでした。確かに写真の端のほうは、歪んで写っていることがあります。私が絵を勉強していたのは、かなり昔の話で、最近の写真にはそうした歪みなどはないのかもしれません。いずれにせよ、写真も絵画も、実は常に変化している、この世に存在する物の一瞬を捉えたという点で、出来上がった絵や写真の中の物は、それを見る時点では、もうこの世に存在する物ではない、と考えてもいいのかもしれません。

Back to Top